【1】  意外な生態を教えてくれた人    産経新聞2002.2.10の記事より
 
水族館のユメ・ウツツ物語〈17〉イシガメ  意外な生態を教えてくれた人  
 
「ゼニガメ」がペットショップや祭りの夜店で売られている。
しかし、本物はほとんど売られていない。
図鑑にもゼニガメの名は見当たらない。
漢字では「銭亀」と書くが、イシガメの子供のことで、
子供時代には昔の”ゼニ”に似た薄茶褐色の円形の甲を持つことからの呼び名だ。
店頭にゼニガメとして並んでいるのは、代役のクサガメやアカミミガメの小亀たちなのだ。
あるデパートでは、ご丁寧に「大きくなったらイシガメになります」という札がぶら下げてあった。
いくら待ってもイシガメにはならないが、百科事典からでも引用したのだろう。

イシガメは日本の固有種である。
比較的水のきれいな河川の上、中流やため池で生活している。
日本にはクサガメ、ミナミイシガメ、スッポン、セマルハコガメ、リュウキュウヤマガメの
計6種のカメが生息している。
中でも水質の悪化に最も弱いのが本種だろう。
そこへ強敵のアカミミガメ(商品名ミドリガメ)が現れた。
ただでさえ虚弱なイシガメは環境の悪化に耐えきれず数を減らし、ゼニガメの市場への供給ができない。
セマルハコガメもリュウキュウヤマガメも国の天然記念物に指定されているが、
いずれも生息できる環境の減少や人間をはじめとする多くの動物たちの圧力に押されている。

 

入館記念の半券のしおり(1999年度)左端がイシガメの子の銭亀

 
姫路市立水族館が開館してウミガメ館長の下にカメ類の飼育展示に重点を置いていたが、
肝心の日本特産種が手に入らない。
ある時、カメを食べている人がいるとの情報が届いた。
スッポンかと思ったらそうではなく、普通のカメらしく、すぐに話を聞きに出掛けた。
その彼は「いくらでも捕ってきてやる」というので「いくらでも欲しい」と答えると、
後日、南京袋二つにいっぱいのイシガメをぶら下げて水族館に現れたのだ。
数十匹のイシガメを収容する池がなく、コイのプールを仕切って、陸を木箱で作り砂を入れた。
この簡単な砂場でイシガメは産卵をした。
砂場の底はプールに漬かっており、毛細管現象で砂はよく湿っていた。
掘り上げた卵は吸水して、表面の石灰質はタイル状にひび割れて中の薄い膜がパンパンに膨らんでいた。
掘る途中で指と卵との間に砂粒が挟まると簡単に破裂した。
これなら小亀の鼻先にある卵歯の小さな突起でも簡単に卵殻を破って孵化することができると実感した。
湿度が不足すると、この膨らみ方が少なく、小亀が手足や頭だけ出してもがくシーンが見られる。

このイシガメハンターは「我らが一族は・・・」という誇りを持つ”揖保川の主”と私が命名した
「易さん」こと大峪易義さんだった。
二十年間の付き合いで多くの陸上動物も含めて教わることが多かった。
イシガメの生態調査では、川岸の竹薮から手頃な一本を切り出し川岸の横穴を探った。
「カメがいるから掴み出せ」の一言で、私は片袖をたくし上げ水温4,5℃の穴に手を入れた。
あっという間にジーンと痺れて感覚がなくなる。
何かが手に触れ、掴み出すと石ころだった。
笑われ、「カメを掴め」と号令。
二の腕まで真っ赤にして再挑戦すると、今度はイシガメだった。
易さんは一ヶ所の穴からは数匹しか捕まえなかった。
食用にもし、年々の穴場を幾つも頭に刻み込んでの正にワイズユーズの生き方をしていた。
イシガメが水中で集団越冬する生態を教えてくれた彼は、
ある夜スッポン捕りに出掛けたまま姿を消してしまった。
最後の本物の山窩(さんか)との別れだったと、今も心の中に数々の思い出が鮮明に記録されている。

                        姫路市立水族館長 兼 島根県立宍道湖自然館長 栃本武良

 

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